本部⇔店舗間の『情報共有』の“理想形”とは?
【番外編①】『画像認識』から“売れない”を探る

こんにちは、堀井です。
本年6月から10月まで「本部⇔店舗間の『情報共有』の”理想形”とは?」の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。
なにかひとつくらいは、皆さまの業務や店舗の運営のお役に立ちましたでしょうか?
今回は番外編として、チェーンストアの大きな悩み/課題でもある 「売れない」について、最近のIT/情報技術動向に小売業の視点をからめながら、探っていきたいと思います。

はじめに

連載の最後、第5回「店舗からの発信」では、チェーンストアにおいて店舗から得られる情報について、下記のようにご説明しました。

前回のおさらい:店舗で得られる情報

  • POSデータ

    「売れた」という事実=販売実績を集計/参照する定量情報

  • 現場情報

    スタッフ/店長の気づきや要望事項・お客さまの反応や意見などの定性情報

    「売れない」「売れた」の理由や背景を推測するために参考とする情報

また『売上』は、お客さまのニーズと店舗の品揃えが重なって「売れた」部分です。「売れない」結果である「売れ残り」は店舗の在庫に、そして生鮮食品で販売期限を越えてしまった場合には商品廃棄となり、利益の減少にもつながります。

売上における「お客さまのニーズ」と「店舗の品揃え」の関係
売上における「お客さまのニーズ」と「店舗の品揃え」の関係

皆さまよくご存知というか、当たり前の話ですが、「売れた」と「売れない」は表裏一体の関係にあります。
下図のように、[店舗の品揃え]を[お客さまのニーズ]に寄せていけば、「売れない」は最小化されて、チェーンストアに限らず小売業が目指している『売上』の最大化が図れるということになります。

『売上』の最大化イメージ
『売上』の最大化イメージ

しかし、[お客さまのニーズ]は多様化していて変化も激しく、なかなか見えない/わからないので、上記の構造は理解していても、店舗の品揃えや商品のオーダーで悩んだり困ったりしているわけです。

お客さまの購買行動

最近はインターネットの普及やソーシャルメディアの影響を組み込んだ「消費者の購買行動モデル」も提唱されていますが、実店舗でのお客さまのモデルとなると、「AIDMA(アイドマ)」が一番ポピュラーかと思います。

「AIDMA」とは

1920年代に米国のサミュエル・ローランド・ホール氏によって提唱された、消費者の購買行動モデル


A: 認知・注意(Attention)
I: 興味・関心(Interest)
D: 欲求(Desire)
M: 記憶(Memory)
A: 行動(Action)

ここでは「AIDMA」については触れませんが、実際の「A:行動(Action)」の始まりが店舗への来店であり、商品の購入に至るまでには下記①~⑥のプロセスが考えられます。

お客さまの購買行動
来店から購入までのお客さまの行動プロセス
  1. 店頭通行客:店舗の前を通過した人数
  2. 来店客:実際に入店された人数
  3. 売場通過客:各売場(通路)を通過した人数
  4. 売場立ち止まり客:特定の売場や什器の前で立ち止まった人数
  5. 商品認識客:商品を手に取った人数
  6. 商品購入客:その商品を購入した人数 … POSの販売実績で把握可能

人物の画像認識

今春の「リテールテックJAPAN(流通情報システム総合展)」でも、複数企業が展示/提案していましたが、最新ITの「画像認識」には注目です。
店舗において対象となるのは、基本的には「人物(顔)」と「商品/売場」の2つですが、特に「人物」の認識はお客さまの購買行動の捕捉が可能となることもあり、万引き防止といった従来の防犯面だけでなく、マーケティング的視点での導入/活用が始まっています。

10月20日(水)の日本経済新聞朝刊に「パルコ、来店客の顔分析」という記事が掲載されていました。
東京・上野で11月4日(土)開業の新業態「PARCO_ya(パルコヤ)」の店内に設置したカメラ映像から、 「なにも購入されなかった来店客」の年齢や性別をAI(人工知能)を使って属性認識し、テナント店の商品開発や売場づくりを支援するサービスを無料で展開するという内容でした。 11月8日〜10日に幕張メッセで開催された「Japan IT Week 秋」のセミナーでも、株式会社パルコ様からご紹介がありました。
セミナーも拝聴したのですが、個人的には非常に興味深く、今後が楽しみなお話でした。

「なにも購入されなかった来店客」というのは、「売れない」≠『チャンスロス(売り逃し)』の可能性も高いといえます。
店頭/店内に設置したカメラで人物を認識し、お客さまの店内外の購買行動が捕捉できれば、前項で挙げた①~⑤の把握も可能となり、今回のテーマでもある「売れない」事実の顕在化につながるでしょう。

例えば、ショーウィンドウやディスプレイの前に立ち止まった人数もカウントできるでしょうし、一定時間内に入退店を繰り返したり、同じ売場を何度も行き来した場合の把握/考慮も可能となりそうです。
さらに陳列されている商品も画像認識できれば、立ち止まって目を向けた商品の特定までは難しいとしても、手に取ったりカゴやカートにいれたりという行動は捕捉できるでしょう。お会計のレジにもカメラがついていれば、POSで購入商品のデータをとり、性別や年代から客層も把握できるので、レジの客層キーも不要になります。
※最近はレジの客層キーを廃止し、会員情報から取得しているチェーンも増えています。

『チャンスロス』の数値化に挑戦

実は某アパレル企業に在籍していた十数年前に、『チャンスロス』を数値化したいと考えて、旗艦店舗の「購入客比率(=⑥購入客数/②来店客数)」を調べようとしたことがありました。

当時はまだ画像認識などは望めるわけもなく、来店客数を把握するには

  • 店頭か入口が見えるところに張り付いて、来店客を見ながら手持ちカウンターをカチカチ押す
    (時々見かける、交差点横に陣取って、通過する車両をカウントする交通量調査方式)
  • 店舗入口にゲートセンサーを設定して、通過人数をカウントする

くらいしか方法はありませんでした。

しかし人手もお金もかけられなかったので、店内の防犯用ビデオカメラを入口に向けて、営業中に撮影したビデオ画像から来店客数を数えようとしました。
結果は、営業時間である10時〜22時までの映像から正確に読み取れるわけもなく、あっけなく挫折/断念しました。
※防犯用なのでレジや売場の画像にも切替わり、入口だけ撮影とはならなかったのも理由でした。

まとめ

セミナーで講演されたパルコ様の担当者の方も、特定した個人画像の取り扱いに法的制約があるということはおしゃっていましたし、そもそも店内外のお客さまの購買行動を捕捉するためには、高精度のカメラが相当の台数必要であり、莫大なハードウェアコストがかかるでしょう。
また、撮影した画像というビッグデータを蓄積し、AIでどう解析するかというシステム的な課題もありますし、会員データとのマッチングも必須となります。
さらに、解析した結果を店舗の品揃え改善やオペレーションレベルの向上にいかに反映・実現できるかは、一回で結論が出るわけもなくトライ&エラーを重ねて、日々精度を上げていくことが必要です。

とはいえ、カメラやセンサーの技術進歩やAI分析の進化によって、つい数年前までは不可能だった「売れない」の”視える化”が、そう遠くない将来には実現できるのではないでしょうか。

次回12月は【番外編②】として、もうひとつの注目ITである「RFID」について考えてみたいと思います。

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